『枕草子』の『上にさぶらふ御猫は』は、宮中で大切にされる御猫の命婦のおとどと、犬の翁丸をめぐる、かわいらしくも少し切ない章段です。
「枕草子 犬」「枕草子 翁丸」「枕草子 猫」「枕草子 御猫」「枕草子 命婦のおとど」と調べる人の多くは、どんな話なのか、なぜ犬が罰せられるのか、清少納言が何を面白がり、何に心を動かしているのかを知りたいはずです。
この記事では、『枕草子』に登場する犬の翁丸、御猫の命婦のおとど、一条天皇、馬の命婦を中心に、あらすじ・原文と現代語訳・読みどころ・テスト対策まで初心者向けにわかりやすく整理します。
『上にさぶらふ御猫は』の登場人物を先に整理
(表は横にスクロールしてご覧ください)
| 登場する動物・人物 | 立場・役割 | 話の中で起こること | 読みどころ |
|---|---|---|---|
| 命婦のおとど | 一条天皇のそばで大切にされる御猫 | 翁丸に追われ、宮中で騒ぎになる | 猫に貴人のような名が与えられる宮廷的な面白さ |
| 翁丸 | 宮中にいる犬 | 御猫を追ったことで罰せられ、後に戻ってくる | 笑いだけでは終わらない、清少納言の同情と観察 |
| 馬の命婦 | 御猫に関わる女房・世話役 | 翁丸をけしかけるような言葉を発する | 何気ない言葉が大きな騒ぎにつながる |
| 一条天皇 | 命婦のおとどをかわいがる存在 | 御猫を大切にし、翁丸への処罰に関わる | 動物も宮廷秩序の中に組み込まれていることが見える |
| 清少納言 | 出来事を観察し、語る人物 | 戻ってきた翁丸に気づき、心を動かされる | 動物へのまなざしと人間観察の細かさ |
この章段は、犬と猫のかわいい話として読めますが、それだけではありません。宮廷の格式、言葉の軽さが生む騒動、動物への愛着、そして清少納言の「をかし」と「あはれ」が重なって見える章段です。
翁丸と命婦のおとどの話は何を読む章段なのか

『枕草子』に登場する命婦のおとどは、一条天皇のそばで大切にされている御猫です。「命婦のおとど」という呼び名からもわかるように、ただの猫ではなく、まるで高貴な存在のように扱われています。
一方、翁丸は宮中にいる犬です。あるとき、命婦のおとどを追ったことが問題になり、翁丸は罰せられてしまいます。その後、ひどい目にあった翁丸が戻ってくる場面に、清少納言は強く心を動かされます。
この話の面白さは、犬と猫が人間社会のような秩序の中に置かれている点です。御猫は貴人のように大切にされ、犬は騒動の責任を負わされる。動物の話でありながら、宮廷社会の空気が映り込んでいます。
『枕草子』全体の流れを先に押さえたい場合は、作品全体の解説もあわせて読むと、この章段の位置づけがわかりやすくなります。
翁丸と命婦のおとどの名場面を原文と現代語訳で読む
ここでは、『上にさぶらふ御猫は』から、読みどころがわかりやすい部分を取り上げます。原文表記は資料や教材によって違いが見られる場合があるため、学校のテスト対策では使用している教科書の表記も確認してください。
命婦のおとど|一条天皇のそばで大切にされる御猫
上にさぶらふ御猫は、かうぶりにて、命婦のおとどとて、いみじうをかしければ、かしづかせ給ふ。
現代語訳:一条天皇のそばにお仕えしている御猫は、官位を持つ者のように扱われ、命婦のおとどと呼ばれて、たいそうかわいらしいので、大切にお世話なさっている。
この一節から、命婦のおとどがただの猫ではなく、宮中で特別に大切にされている存在だとわかります。猫に「命婦のおとど」という、人間の身分を思わせる名が付いているところに、宮廷らしいユーモアがあります。
清少納言は、御猫をかわいがる様子をただ「かわいい」と書くだけではありません。人間社会の格式を猫にまで重ねているところに、面白さを見出しています。
馬の命婦の一言から翁丸が騒動に巻き込まれる
翁丸、いづら。命婦のおとど食へ。
現代語訳:翁丸、どこにいるの。命婦のおとどに食いつけ。
この言葉をきっかけに、翁丸が命婦のおとどを追う騒ぎになります。字面だけ見ると強い言い方ですが、場面としては犬をけしかけるような言葉だと考えるとわかりやすくなります。
ここで重要なのは、相手が普通の猫ではなく、一条天皇のそばで大切にされる御猫だったことです。小さないたずらのような言葉が、宮廷の秩序の中では大きな問題になってしまいます。
翁丸が罰せられたことを思う場面
あはれ、きのふ翁丸をいみじうも打ちしかな。死にけむこそあはれなれ。
現代語訳:ああ、昨日は翁丸をひどく打ってしまったことだ。死んでしまったとしたら、なんと気の毒なことだろう。
翁丸の話は、ただの笑い話では終わりません。罰せられた翁丸を思う言葉には、清少納言の同情がはっきり表れています。
『枕草子』は「をかし」の文学といわれますが、この章段では「あはれ」の感覚も働いています。かわいい、面白い、気の毒だ、という複数の感情が重なっている点が、この話の深さです。
翁丸が戻ってくる場面にある切なさ
この章段で印象的なのは、翁丸が罰せられて終わるのではなく、その後に戻ってくるところです。傷つき、弱った様子を見せる翁丸に対して、清少納言は単なる犬以上の感情を向けています。
翁丸は「悪い犬」としてだけ描かれているわけではありません。命じられた言葉に反応した結果、宮廷の秩序の中で罰せられ、戻ってきたあとには痛々しさを感じさせる存在として描かれます。
ここに、清少納言の観察眼があります。御猫の高貴な扱いを面白がる目と、罰せられた犬に心を寄せる目が、同じ章段の中に並んでいるのです。
この章段の読みどころは「動物のかわいさ」だけではない

翁丸と命婦のおとどの話は、犬と猫が出てくるため、最初は親しみやすい動物エピソードに見えます。しかし、読みどころはそれだけではありません。
まず、命婦のおとどの扱いには、宮廷社会の格式が反映されています。猫でありながら、まるで身分ある人物のような名を与えられ、大切にされています。ここには、宮廷の遊び心と格式の両方が見えます。
次に、翁丸の扱いには、笑いと理不尽さが混ざっています。犬が猫を追っただけとも言えますが、相手が特別な御猫だったため、大きな騒動になってしまう。そこに気の毒さも感じられます。
清少納言は、その出来事をただ説明するのではなく、動物の動き、人々の反応、場の空気を細かく観察しています。動物の話でありながら、人間社会の縮図として読めるところが面白いのです。
『枕草子』全体の中で犬と猫の章段が持つ意味
『枕草子』には、四季の美しさを描く章段、ものづくし、宮廷での会話、人物評など、さまざまな文章があります。その中で、『上にさぶらふ御猫は』は、動物を通して宮廷の空気を見せる珍しい話です。
命婦のおとどは、宮中で特別にかわいがられる存在です。その一方で、翁丸は騒動を起こした犬として罰せられます。二匹の扱いの違いから、人間社会の秩序が動物にも及んでいることが見えてきます。
また、この章段には清少納言の観察眼がよく表れています。猫の高貴な扱いを面白がる目、犬の境遇を気の毒に思う心、人々の反応を記憶して語る力が、ひとつの話の中にまとまっています。
『枕草子』を「明るく鋭い随筆」とだけ見ると、この章段の切なさは見落としやすくなります。翁丸の話は、清少納言が笑いだけでなく、動物の痛みや哀れさにも目を向けていたことを示しています。
三大随筆で比べると、翁丸の話はどう読めるか
三大随筆の中で見ると、『枕草子』の動物描写は、身近な生きものの動きや扱われ方を通して、宮廷の空気や人間の感情を映し出すところに特徴があります。
『方丈記』では、災害や住まいの変化を通して、世の中の無常が語られます。『徒然草』では、人間のふるまいや教訓が中心になり、動物が登場しても人間観察や戒めに結びつきやすくなります。たとえば『徒然草』の猫またの話は、動物そのものよりも、人間の思い込みや慌て方を読む面が強くなります。
| 作品 | 動物・自然の扱い | 読み味 | 翁丸・命婦のおとどとの違い |
|---|---|---|---|
| 『枕草子』 | 動物のかわいらしさ、動き、宮廷での扱われ方 | 明るく、観察が細かいが、時に切ない | 犬と猫を通して宮廷社会の空気が見える |
| 『方丈記』 | 自然災害や住まいの変化が中心 | 静かで、無常を感じさせる | 個々の動物より、世界全体の移ろいに目が向く |
| 『徒然草』 | 人間のふるまいや教訓の材料として扱われることがある | 冷静で、時にユーモラス | 動物そのものより、人間の理解や勘違いが焦点になりやすい |
翁丸と命婦のおとどの話は、『枕草子』らしく、かわいらしさ、宮廷の格式、言葉の軽さが生む騒動、そしてあわれみが同じ場面に重なっている章段です。
テスト対策|翁丸・命婦のおとどで押さえたいポイント
翁丸と命婦のおとどの章段は、動物の話として親しみやすい一方で、敬語、人物関係、宮廷文化、清少納言の感情の動きが問われやすい章段です。
登場する名前と役割を混同しない
| 名前 | 何を指すか | 注意点 |
|---|---|---|
| 命婦のおとど | 宮中で大切にされる御猫 | 「みょうぶのおとど」と読み、人間の貴人のような名で呼ばれている点が重要 |
| 翁丸 | 御猫を追ったことで罰せられる犬 | 笑い話だけでなく、後半の哀れさも読む |
| 馬の命婦 | 御猫の世話に関わる女房 | 何気ない言葉が騒動のきっかけになる |
| 一条天皇 | 御猫をかわいがる存在 | 御猫の扱いが特別である理由を考える |
| 清少納言 | 出来事を語る観察者 | 翁丸への同情や場面の記憶に注目する |
「をかし」と「あはれ」の両方が見える章段として読む
命婦のおとどが貴人のように扱われるところには、宮廷的な「をかし」があります。一方で、ひどい目にあった翁丸に対して清少納言が心を動かすところには「あはれ」の感覚があります。
テストでこの章段の主題を説明する場合は、「犬と猫の話を通して、宮廷の格式と清少納言の同情が描かれている」と答えると、内容が整理しやすくなります。
敬語表現は誰への敬意かを確認する
御猫の命婦のおとどは、一条天皇のそばにいる特別な猫として扱われます。そのため、猫に関わる表現にも、人間の身分や宮廷の格式を思わせる言葉が出てきます。
現代語訳では、単語だけを訳すのではなく、誰が大切にされ、誰が叱られ、誰がその出来事を見ているのかを整理すると、場面がつかみやすくなります。
『枕草子』の動物章段とあわせて読みたい三大随筆の記事
翁丸と命婦のおとどの話を読むと、『枕草子』が自然や宮廷行事だけでなく、動物の動きや人々の反応まで細かく見ている作品だとわかります。
そこから三大随筆へ広げると、『枕草子』は「日常の面白さや宮廷の空気を切り取る随筆」、『方丈記』は「変わりゆく世界を見つめる随筆」、『徒然草』は「人間のふるまいを考える随筆」として読み分けやすくなります。
『枕草子』の犬と猫についてよくある質問
命婦のおとどは本当に猫なのですか?
はい、宮中で大切にされている御猫です。ただし、貴人のような名で呼ばれているため、普通の猫以上に特別な存在として描かれています。
翁丸はなぜ罰せられたのですか?
命婦のおとどを追って騒ぎになったためです。相手が宮中で大切にされる御猫だったため、犬の行動が大きな問題として扱われました。
翁丸の話にはなぜ「あはれ」が感じられるのですか?
翁丸はただの悪い犬ではなく、命じられた言葉に反応した結果として罰せられた存在でもあります。戻ってきた翁丸の痛々しさに、清少納言の同情が向けられています。
清少納言は翁丸をどう見ていますか?
騒動の原因になった犬としてだけでなく、ひどい目にあって戻ってきた気の毒な存在として見ています。そこに清少納言の細かな観察と同情が表れています。
命婦のおとどという名前にはどんな意味がありますか?
「命婦」も「おとど」も、人間の身分や高貴さを思わせる言葉です。猫にそのような名が与えられている点に、宮廷的な遊び心があります。
テストではどこが問われやすいですか?
翁丸と命婦のおとどの関係、騒動のきっかけ、清少納言の感情の動き、敬語表現が問われやすいです。犬と猫の話に見えて、宮廷文化を読む章段でもあります。
翁丸と命婦のおとどの話は、声に出して読むと会話の調子や場面の動きがつかみやすくなります。古典は音読や朗読で味わうと、現代語訳だけでは見えにくい人物や動物の表情も感じやすくなります。
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まとめ:翁丸と命婦のおとどは『枕草子』の動物観察を読む入口
『枕草子』に出てくる犬の翁丸と、御猫の命婦のおとどの話は、親しみやすい動物章段であると同時に、宮廷社会の空気がよく表れた章段です。猫が貴人のように大切にされ、犬が騒動の責任を負うところに、宮廷ならではの格式と遊び心が見えます。
また、翁丸がひどい目にあって戻ってくる場面には、清少納言の同情や「あはれ」の感覚も表れています。『枕草子』は明るく機知に富んだ作品ですが、この章段を読むと、笑いだけではない人間味も感じられます。
- 『上にさぶらふ御猫は』は、御猫の命婦のおとどと犬の翁丸をめぐる章段
- 命婦のおとどは、宮中で大切にされる特別な御猫
- 翁丸は、命婦のおとどを追ったことで罰せられる犬
- 命婦のおとどの名には、猫を貴人のように扱う宮廷的な面白さがある
- 翁丸の後半の描写には、清少納言の同情と「あはれ」が表れる
- テストでは、登場する名前、騒動の流れ、敬語、清少納言の感情に注目する
翁丸と命婦のおとどを読むと、『枕草子』は自然や宮廷行事だけでなく、身近な動物のしぐさや、その周囲で起こる人間の反応まで細やかに描く作品だとわかります。
参考文献
- 『新編 日本古典文学全集 枕草子』小学館
- 『日本古典文学大系 枕草子 紫式部日記』岩波書店
- 『角川ソフィア文庫 新版 枕草子』角川学芸出版
- 『ビギナーズ・クラシックス 日本の古典 枕草子』角川ソフィア文庫
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