『枕草子』のものづくしとは、似た性質をもつものを次々に挙げながら、清少納言の美意識や好き嫌いを鮮やかに見せる章段のことです。
「枕草子 ものづくし」「枕草子 ものづくし 一覧」「枕草子 うつくしきもの」「枕草子 すさまじきもの」「枕草子 にくきもの」と調べる人の多くは、どんな章段があり、それぞれ何が面白いのかを知りたいはずです。
この記事では、『枕草子』の代表的なものづくし章段である『うつくしきもの』『すさまじきもの』『ありがたきもの』『にくきもの』を中心に、意味・読みどころ・テスト対策までわかりやすく整理します。
『枕草子』のものづくし一覧|代表章段の違いを先に確認
(表は横にスクロールしてご覧ください)
| 章段名 |
中心になる感覚 |
主な読みどころ |
学習で押さえる点 |
| 『うつくしきもの』 |
小さく、かわいらしいもの |
幼いもの・小さな動物・小物への細かなまなざし |
「うつくし」の古語の意味 |
| 『すさまじきもの』 |
場違いで興ざめなもの |
期待が外れる瞬間への鋭い違和感 |
現代語の「すさまじい」との違い |
| 『ありがたきもの』 |
めったにないもの |
理想と現実の差を笑いに変える視点 |
「ありがたし」の古語の意味 |
| 『にくきもの』 |
腹立たしく、不快なもの |
日常の小さな苛立ちを言語化する面白さ |
清少納言の観察眼と語りのテンポ |
ものづくし章段では、同じ性質をもつものを並べることで、清少納言が何を美しいと感じ、何に違和感を覚え、何を嫌うのかがはっきり見えてきます。
ものづくしは清少納言の「好き嫌い」が見える章段

『枕草子』のものづくしは、「うつくしきもの」「すさまじきもの」「ありがたきもの」「にくきもの」のように、ある共通した感覚に当てはまるものを列挙していく章段です。古典文学では、このような章段を類聚的章段と呼ぶことがあります。
「類聚」とは、似たものを集めるという意味です。ただし、『枕草子』のものづくしは、辞書やカタログのように客観的に整理したものではありません。清少納言の主観、好み、違和感、笑いが強く出ています。
たとえば、同じ「よいもの」を扱っていても、『うつくしきもの』は小さく愛らしいものへのまなざしが中心です。一方で、『ありがたきもの』は「めったにない理想」を挙げることで、人間関係や世の中への皮肉もにじませます。
つまり、ものづくしを読むときは「何が並んでいるか」だけでなく、「なぜ清少納言はそれを同じ仲間として見たのか」を考えることが大切です。
代表的なものづくし4章段を原文と現代語訳で読む

ここでは、代表的なものづくし章段の一部を取り上げます。原文は資料や伝本によって表記に違いが見られる場合があるため、学習では学校の教科書や使用教材の表記も確認してください。
『うつくしきもの』|小ささと愛らしさを見つめる章段
うつくしきもの。瓜にかきたる児の顔。雀の子の、ねず鳴きするに踊り来る。
現代語訳:かわいらしいもの。瓜に描いた幼い子どもの顔。雀の子が、ねずみの鳴きまねに反応して、跳ねるように近づいてくる様子。
古語の「うつくし」は、現代語の「美しい」よりも、「かわいらしい」「いとしい」に近い意味で使われることがあります。『うつくしきもの』では、小さなもの、幼いもの、思わず守りたくなるようなものが並びます。
ここで面白いのは、清少納言が大げさな美ではなく、身近な小ささに心を動かしている点です。宮廷文化の華やかさだけでなく、日常の細部に目を向ける感性がよく表れています。
『すさまじきもの』|期待が外れたときの興ざめを描く章段
すさまじきもの。昼ほゆる犬。春の網代。三、四月の紅梅の衣。
現代語訳:興ざめなもの。昼間にほえる犬。春になっても残っている網代。三月、四月ごろに着る紅梅襲の衣。
「すさまじ」は、現代語の「ものすごい」という意味ではなく、古文では「興ざめだ」「場に合わずしらける」といった感覚を表すことがあります。
『すさまじきもの』では、物そのものが悪いというより、「時期や場面に合っていない」ことが問題にされています。清少納言は、季節感や場の空気に敏感だからこそ、少しのずれを見逃しません。
『ありがたきもの』|めったにない理想を笑いに変える章段
ありがたきもの。舅にほめらるる婿。また、姑に思はるる嫁の君。毛のよく抜くる銀の毛抜き。
現代語訳:めったにないもの。舅にほめられる婿。また、姑に大切に思われるお嫁さん。毛がよく抜ける銀の毛抜き。
古語の「ありがたし」は、「感謝したい」という意味だけでなく、「めったにない」「珍しい」という意味を持ちます。『ありがたきもの』では、理想的ではあるけれど、実際にはなかなかないものが挙げられます。
舅と婿、姑と嫁という人間関係を取り上げている点に、清少納言の人間観察の鋭さがあります。一方で、銀の毛抜きのような道具の話も混ざるため、理想論だけでなく生活感のある章段としても読めます。
『にくきもの』|日常の小さな苛立ちを言葉にする章段
にくきもの。急ぐことある折に来て、長言するまらうど。硯に髪の入りて、すられたる。
現代語訳:腹立たしいもの。急ぎの用事があるときにやって来て、長話をする客人。硯に髪の毛が入って、そのまま墨と一緒にすられてしまうこと。
『にくきもの』の面白さは、怒りの対象が大事件ではなく、日常の小さな不快感であるところです。急いでいるときの長話、硯に入った髪の毛など、現代の読者にも感覚が伝わりやすい例が並びます。
ただし、単なる愚痴ではありません。宮廷生活では、相手の都合や場の空気を読むことも大切でした。『にくきもの』には、そうした場の感覚に鈍いふるまいへの鋭い反応も含まれています。
ものづくしの読みどころ|分類すること自体が知的な遊びになっている
ものづくし章段の読みどころは、ただの分類ではなく、分類そのものが清少納言の評価になっている点です。
『うつくしきもの』では、小さく幼いものを「かわいらしい」と見る目があります。『すさまじきもの』では、季節や場面に合わないものを一瞬で見抜きます。『ありがたきもの』では、理想的だがめったにないものを笑いに変え、『にくきもの』では、日常の不快感を鋭く言語化します。
このように並べると、清少納言の文章は単なる感想文ではなく、「世界をどう分類するか」という知的な遊びでもあることがわかります。好きなもの、興ざめなもの、珍しいもの、腹立たしいものを分けることで、読者にも同じ感覚を追体験させているのです。
『枕草子』の魅力は、明るさだけではありません。判断の速さ、観察の細かさ、言葉にする勇気があります。ものづくしは、その魅力が最も見えやすい形式の一つです。
『枕草子』全体の中で、ものづくしが持つ意味
『枕草子』には、宮中での出来事を語る章段、人物のふるまいを描く章段、自然や季節を味わう章段など、さまざまな文章があります。作品全体の流れを先に押さえたい場合は、『
枕草子』もあわせて読むと、ものづくし章段の位置づけがわかりやすくなります。
ものづくしでは、「何をよいと思うか」「何をつまらないと思うか」が前面に出るため、清少納言の美意識がはっきり見えます。宮中の出来事を描く章段に比べると、作者の感覚そのものを直接味わいやすい形式です。
また、ものづくしは中宮定子の宮廷サロンの知的な空気とも関係しています。すばやくものを見分け、気の利いた言葉で表すことは、宮廷文化の中で重要な教養でもありました。
『春はあけぼの』が一瞬の風景を切り取る文章だとすれば、ものづくしは同じ感覚に属するものを並べていく文章です。どちらも清少納言の観察眼を示しますが、ものづくしでは「分類する力」がより強く見えてきます。
『方丈記』『徒然草』と比べた『枕草子』ものづくしの読み味
三大随筆で比べると、『枕草子』のものづくしは、日常の感覚を明るく鋭く分類する文章です。清少納言は、世界を眺めながら「これはうつくしい」「これはすさまじい」「これはにくい」と、感覚の輪郭をはっきりさせます。
一方、『方丈記』は、災害や住まいの変化を通して、世の中の移ろいやすさを見つめる作品です。『徒然草』は、人間のふるまいや人生の教訓、美意識を、少し距離を置いて考える随筆です。
| 作品 |
中心になる視点 |
読み味 |
ものづくしとの違い |
| 『枕草子』 |
美意識、好き嫌い、宮廷的な機知 |
明るく、テンポがよい |
感覚を分類しながら評価する |
| 『方丈記』 |
無常観、災害、住まい |
静かで、思索的 |
分類よりも、移ろいそのものを見つめる |
| 『徒然草』 |
人生観、教訓、人間観察 |
冷静で、時に皮肉がある |
感覚の列挙より、考えの展開が目立つ |
三大随筆として読み比べる場合は、『
方丈記』『
徒然草』の全体解説もあわせて読むと、それぞれの随筆の違いが見えやすくなります。
『枕草子』のものづくしは、三大随筆の中でも特に「瞬間的な判断」と「言葉の切れ味」が楽しめる部分です。深刻な思想というより、日常をどう面白く見るかを教えてくれる文章として読めます。
テスト対策|ものづくしで押さえたい古語と表現技法
『枕草子』のものづくしは、学校のテストでも扱われやすい章段です。特に、現代語と意味がずれる古語、列挙の表現、清少納言の美意識が問われやすくなります。
現代語と意味がずれる古語に注意する
| 古語 |
古文での主な意味 |
注意点 |
| うつくし |
かわいらしい、いとしい |
現代語の「美しい」とだけ訳さない |
| すさまじ |
興ざめだ、場に合わない |
現代語の「すごい」と混同しない |
| ありがたし |
めったにない、珍しい |
「感謝したい」だけで処理しない |
| にくし |
気に入らない、腹立たしい |
強い憎悪だけでなく、小さな不快感も含む |
| をかし |
趣がある、心が引かれる |
『枕草子』の美意識を考える重要語 |
表現技法は「列挙」と「分類」に注目する
ものづくしでは、同じ種類のものを次々に挙げる「列挙」が大きな特徴です。ただ並べているだけでなく、章段名によって一つの基準が作られ、その基準に合うものが集められています。
テストで「ものづくしの特徴を説明しなさい」と問われたら、「似た性質をもつものを列挙し、清少納言の美意識や価値判断を示している」と答えると整理しやすくなります。
章段名だけで意味を決めつけない
『うつくしきもの』は美人の話だけではなく、小さくかわいらしいものを扱います。『すさまじきもの』も、現代語の「すさまじい迫力」ではなく、場違いで興ざめな感覚を表します。
現代語と古語のずれを意識すると、ものづくし章段は一気に読みやすくなります。
『枕草子』から三大随筆へ広げて読むなら
『枕草子』のものづくしを読むと、清少納言の観察眼や「をかし」の感覚が見えやすくなります。ものづくしは、清少納言が日常をどう切り分け、どう言葉に変えたのかを知る入口になります。
また、三大随筆として『方丈記』『徒然草』と読み比べると、同じ随筆でも、何を見つめ、どのように語るかが大きく違うことがわかります。ものづくしは、その中でも特に『枕草子』らしい感性の速さが表れた形式です。
『枕草子』のものづくしについてよくある質問
ものづくしはなぜ読みやすいのに奥が深いのですか?
短い例が次々に並ぶため読みやすい一方で、何を同じ仲間に入れるかに清少納言の感覚が表れます。読みやすさの裏に、鋭い分類の目があります。
『うつくしきもの』の「うつくし」は美しいという意味ですか?
古文では「かわいらしい」「いとしい」という意味で使われることがあります。現代語の「美しい」とそのまま同じに考えない方が自然です。
『すさまじきもの』は怖いものや激しいもののことですか?
『枕草子』では、場に合わず興ざめなものという意味で読むのが基本です。季節外れ、期待外れ、空気に合わないものへの違和感が中心です。
『にくきもの』は清少納言の性格が悪いという意味ですか?
そう単純には言えません。日常の小さな不快感を具体的に言葉にすることで、読者に共感と笑いを生んでいます。
『春はあけぼの』とものづくしは何が違いますか?
『春はあけぼの』は季節の一瞬を切り取る章段です。ものづくしは、似た感覚のものを並べることで、清少納言の分類力や判断の速さを見せます。
テストではどの章段が出やすいですか?
学校や教科書によって異なりますが、『うつくしきもの』『すさまじきもの』『ありがたきもの』『にくきもの』は、古語の意味や列挙の表現と合わせて扱われやすい章段です。
『枕草子』のものづくしは、声に出して読むと列挙のテンポや言葉の切れ味がよくわかります。古典は音読や朗読で味わうと、意味だけでは見えにくいリズムや面白さもつかみやすくなります。
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まとめ:ものづくしは清少納言の感性を読む入口
『枕草子』のものづくしは、清少納言が世界をどのように分類し、何をよいもの・興ざめなもの・珍しいもの・腹立たしいものとして見ていたのかを知るための重要な章段群です。
『うつくしきもの』『すさまじきもの』『ありがたきもの』『にくきもの』は、それぞれ単なる一覧ではありません。並べられたものの背後に、清少納言の観察眼、宮廷的な美意識、日常を言葉にする鋭さが表れています。
- ものづくしとは、似た性質をもつものを並べる類聚的章段のこと
- 『うつくしきもの』では、小さくかわいらしいものへのまなざしが中心になる
- 『すさまじきもの』では、場違いで興ざめなものへの違和感が描かれる
- 『ありがたきもの』では、めったにない理想や人間関係の難しさが見える
- 『にくきもの』では、日常の小さな苛立ちが具体的に言語化される
- 「うつくし」「すさまじ」「ありがたし」などは現代語との意味の違いに注意する
- ものづくしは、『枕草子』の「をかし」や清少納言の判断の速さを理解する入口になる
ものづくしを読むと、『枕草子』は遠い宮廷文学ではなく、日常の「わかる」「それは嫌だ」「これはかわいい」を鮮やかに言葉にした作品として近づいてきます。
参考文献
- 『新編 日本古典文学全集 枕草子』小学館
- 『日本古典文学大系 枕草子 紫式部日記』岩波書店
- 『角川ソフィア文庫 新版 枕草子』角川学芸出版
- 『ビギナーズ・クラシックス 日本の古典 枕草子』角川ソフィア文庫
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この記事を書いた人
運営者の杉本 洋平です。大学で日本文学を専攻し、卒業後も古典文学の一次資料や研究書を参照しながら独学を続けています。「作品名は知っているけれど中身がわからない」という入口の壁をなくしたくて、このサイトを立ち上げました。
大切にしていること
- まず全体像から:作品名だけで終わらず、内容・作者・時代・冒頭を最初に整理します。
- 初見でも読みやすく:古典文学が苦手な方でも入りやすいよう、難しい言い回しをできるだけ避けます。
- 作品ごとの違いを大切に:物語、随筆、日記、歌集、紀行文など、それぞれに合った切り口で説明します。
- 混同しやすい点を整理:作者・編者・撰者の違いや、成立時期、似た作品名などをできるだけわかりやすく区別します。
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