『続後撰和歌集』は、しょくごせんわかしゅうと読む鎌倉時代の勅撰和歌集です。後嵯峨院の院宣により宝治2年(1248年)ごろに撰進が始まり、建長3年(1251年)ごろ成立したとされます。撰者は藤原為家で、全20巻・約1370首を収める、十番目の勅撰和歌集です。
この歌集のおもしろさは、新古今和歌集の余情を受け継ぎながら、言い回しや構図をやや平明に戻し、落ち着いた美しさで整えているところにあります。華やかな革新より、姿が素直で心のうるわしい歌を重んじる方向が前に出ており、のちの二条派の安定した歌風へつながる感触がよく見えます。
今読む価値があるのは、新古今のあとに何が起きたかを知るためです。新古今ほど技巧へ尖らず、新勅撰和歌集ほど引き締まりすぎず、少し明るく、少し素直に整え直された勅撰集として読むと、鎌倉初期から中期へ向かう歌壇の空気がつかみやすくなります。
続後撰和歌集の全体像と基本情報を3分で読む
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作品名 | 続後撰和歌集 |
| 読み方 | しょくごせんわかしゅう |
| ジャンル | 勅撰和歌集 |
| 成立 | 宝治2年(1248年)ごろ院宣、建長3年(1251年)ごろ成立とされる |
| 撰者 | 藤原為家 |
| 巻数 | 20巻 |
| 歌数 | 約1370首 |
| 位置づけ | 十番目の勅撰和歌集 |
| 作品の核 | 新古今の余情を受けつつ、平明で安定した歌風へ整え直した |
続後撰和歌集は、後嵯峨院の意向のもとで藤原為家が撰進した勅撰集です。勅撰和歌集とは、天皇・上皇の命により公的に編まれた和歌集を指します。この歌集は、古今和歌集から続く勅撰集の伝統の中で、新古今以後の歌壇をどう見せるかを担った歌集です。
特に注目したいのは、新古今時代の歌人の歌を多く収めている点です。藤原俊成・藤原定家・後鳥羽院・順徳院などの歌が目立ち、新勅撰和歌集には十分拾われなかった歌々も多く含みます。そのため、続後撰和歌集は単なる次の勅撰集ではなく、新古今歌壇をもう一度整理して見せた歌集として読むと特徴がつかみやすくなります。
藤原為家が父定家の後を受けて撰んだ勅撰集

撰者の藤原為家は、正治元年(1198年)生・建治元年(1275年)没とされる歌人で、藤原定家の子です。父定家が『新勅撰和歌集』を撰んだのに続き、為家はこの『続後撰和歌集』を撰進しました。父子二代で勅撰集の撰者となったことからも、御子左家の権威の大きさがわかります。
ただし、為家の歌風は父定家とまったく同じではありません。定家が新古今期の技巧や強い造形感覚を推し進めたのに対し、為家には、温雅で平明な歌へ重心を戻す傾きが見えます。家集の『為家集』を見ても、整った歌姿を保ちながら感情を無理なく収める方向が強く、続後撰和歌集の落ち着いたまとまりは、この撰者の感覚をよく反映しています。
そのため、この歌集は単に「定家の息子が撰んだ歌集」ではなく、新古今の後に何を残し、何を整え直すかという為家の答えが表れた勅撰集でもあります。
鎌倉初期の歌壇では新古今の余韻をどう受け継ぐかが争点
続後撰和歌集が成立した13世紀半ばは、新古今和歌集の達成がまだ大きな基準として残っていた時代です。後鳥羽院の院政期に頂点へ達した和歌の美意識を、鎌倉初期から中期の歌壇がどう引き継ぐかが重要な問題になっていました。
その中で、極端な技巧や張りつめた構成ばかりを追うのではなく、姿の端正さ、心のうるわしさ、言葉の自然さを重んじる方向が強まっていきます。続後撰和歌集には、そうした変化がはっきり見えます。
つまりこの歌集は、新古今の後退版ではありません。新古今が作った高い美意識を前提にしながら、より安定した歌風へ整え直す時代の気分を映した歌集です。
題名の続後撰は後撰和歌集の後裔としての正統性を示している
「続後撰」という題名は、第二勅撰集『後撰和歌集』を意識した命名です。つまり、古今和歌集―後撰和歌集―という勅撰集の正統な流れに、自分たちの歌集を接続しようとする意識が題名の段階で示されています。
ただし、内容は平安中期の後撰和歌集にそのまま戻るわけではありません。実際には、新古今・新勅撰を経た後の歌壇を整理した歌集であり、題名はむしろ「正統性」の表明として読む方が自然です。
そのため続後撰和歌集は、単なる続編ではなく、新古今以後の和歌を古典的な正統へつなぎ直す意図を持つ歌集だと考えると理解しやすくなります。
四季と恋を軸にしながら新古今歌壇の余韻を広く集める構成
| 区分 | 主な内容 |
|---|---|
| 春・夏・秋・冬 | 四季の景物と移ろいを端正に詠む |
| 神祇・釈教 | 神仏への感懐や祈りを収める |
| 恋 | 恋の始まり、待つ思い、隠れた恋、別れまでを扱う |
| 雑・羈旅・賀 | 日常、旅、祝賀など広い場面の歌を収める |
続後撰和歌集は20巻構成で、四季歌、神祇歌、釈教歌、恋歌、雑歌、羈旅歌、賀歌などを収めます。勅撰集としては整った部立てですが、読むと新古今時代の余韻がかなり濃く残っていることがわかります。
とくに、定家・俊成・後鳥羽院・順徳院などの歌が多く入り、新勅撰和歌集に漏れた歌々を多く補っている点が特徴です。土御門院も後鳥羽院の子としてこの時代の歌壇を考えるうえで重要な存在ですが、この歌集ではとくに後鳥羽院と順徳院の歌を補い直した意味が大きく見えます。
そのため、続後撰和歌集は単なる時代の最新歌集ではなく、新古今歌壇の記憶をまとめ直す歌集としての役割も持っています。
構成の上では四季から恋へ進むにつれて、景物の美しさと人の感情が無理なくつながっていきます。技巧を誇示するというより、整った歌姿の中へ思いを収める設計が目立ちます。
【新勅撰和歌集との違い】緊張感より平明で明るい調べが前に出る点
| 比較点 | 続後撰和歌集 | 新勅撰和歌集 |
|---|---|---|
| 撰者 | 藤原為家 | 藤原定家 |
| 成立 | 1251年ごろ | 1235年ごろ |
| 歌風 | 平明・温雅・やや明るい | 緊張感が強く、引き締まる |
| 歌人の扱い | 新古今歌人を広く補い直す | 選択がやや峻厳で絞り込む |
新勅撰和歌集と比べると、続後撰和歌集は少し肩の力が抜けています。定家撰の新勅撰集には、選び抜かれた歌の緊張感がありますが、為家撰の続後撰集には、もう少し平明で温雅な調子があります。
これは質が落ちたという意味ではありません。むしろ、尖った技巧を抑え、歌姿を自然に整えながら、明るさとおだやかさを添えているのです。そのため、続後撰和歌集には読みやすさと安定感があります。
だからこの歌集は、新勅撰和歌集の後を受けて、新古今の美を少しほぐし、より素直な歌へ整えた勅撰集として理解すると特徴が見えます。
代表歌は平明な美しさと新古今歌壇の余韻をよく示している
春の歌は端正な景物描写で歌集全体の調子を示す
としのうちに 春立ちぬとや 吉野山 霞かかれる 峰の白雪
藤原俊成(続後撰和歌集 巻一・一番)
年が改まるうちにもう春が来たのだろうか、吉野山には霞がかかり、峰の雪が春の気配を帯びて見える、という歌です。新春の到来を吉野の白雪と霞で見せるところに、勅撰集の巻頭にふさわしい気品があります。
続後撰和歌集らしいのは、景色の構図がすっきりしていて無理がないことです。新古今のような濃密な象徴性へ寄りすぎず、しかし古典的な美しさはしっかり保っています。歌集全体の平明な美をよく表す一首です。
恋の歌は技巧よりも率直な切実さを前に出す
逢ふまでの 恋ぞ祈りに なりにける 年月ながき 物思へとて
藤原為家(続後撰和歌集 巻十五・七八五番)
会うまでは、恋そのものが祈りのようになってしまった、長い年月を物思いのまま過ごしてきたからだ、という歌です。会えない時間の長さが、願いを祈りに変えてしまうところに恋の重さがあります。
この歌の良さは、難しい技巧に寄りかからず、感情の筋道がそのまま言葉になっているところです。恋の苦しさを整った歌姿の中へ収める、続後撰和歌集の方向がよく見えます。
古歌の再読は続後撰和歌集が古典をどう生かしたかを示す
いかでかは 鳥の鳴くらむ 人しれず 思ふ心は まだ夜深きに
在原業平(続後撰和歌集 巻十五・八二〇番)
まだ夜は深いはずなのに、どうして鳥は鳴くのだろう、人知れず思うこの心はまだ深い夜の中にあるのに、という歌です。恋の秘密が夜の深さと重なっています。
続後撰和歌集の特徴の一つは、こうした古歌をただ古典として並べるのでなく、鎌倉中期の勅撰集の中であらためて正統の歌として読み直していることです。平安前期の業平の恋歌を収めることで、古典の恋の型を今も生きるものとして継承する意図が見えてきます。秘密の恋、夜、鳥の声という古典的な主題が、この歌集全体の落ち着いた恋歌の調子ともよく響き合っています。
哀傷の歌は後鳥羽院・順徳院の存在感を補い直す
ももしきや 古き軒端の しのぶにも なほあまりある 昔なりけり
順徳院(続後撰和歌集 巻十七・一二〇五番)
宮中の古い軒端をしのぶだけでも、なお余りあるほど昔への思いがあふれる、という歌です。失われた宮廷の時間への追慕が、静かな言葉で深く響きます。
続後撰和歌集が新勅撰集に漏れた後鳥羽院・順徳院らの歌を多く収めることの意味は、こうした歌にあります。歴史の痛みを、過度に悲壮にせず、品位を保って伝えるところにこの歌集の美があります。
【後世への影響】二条派の安定した歌風を定着させた点

続後撰和歌集は、千載和歌集(俊成撰)・新勅撰和歌集(定家撰)・続後撰和歌集(為家撰)の三集をまとめて、後に二条家の三代集と呼ぶことがあります。これは、俊成・定家・為家へ連なる御子左家嫡流の歌風が、この三集に一つの筋として見えるからです。
その中で続後撰和歌集が果たした役割は、新古今の高い美意識をいったん安定した歌風へ落ち着かせたことにあります。新古今ほど技巧へ振れず、新勅撰ほど緊張を張りつめさせず、平明で温雅な歌を勅撰集の中心へ据えたことで、のちの二条派の基調が見えやすくなりました。二条派とは、為家の流れを継ぎ、正統的で安定した歌風を重んじた歌道の系統です。
また、この歌集は後鳥羽院・順徳院らの歌を補い直した点でも重要です。新古今歌壇の記憶を切り捨てずに抱え込みながら、次代の勅撰集へつなぐ役を果たしたため、続古今和歌集や続拾遺和歌集へ向かう歌壇の安定感の土台になりました。
よくある質問
続後撰和歌集はどんな歌集?
鎌倉時代に藤原為家が撰進した十番目の勅撰和歌集です。新古今和歌集の余情を受けつつ、より平明で温雅な歌風へ整えた歌集として読めます。
続後撰和歌集の読み方は?
しょくごせんわかしゅうです。後撰和歌集の正統な後継であることを意識した題名です。
続後撰和歌集はなぜ有名なの?
藤原為家が撰した勅撰集として、新古今後の歌壇をどう整えたかがよく見えるからです。新古今時代の歌人を多く収め、二条派の安定した歌風の基調も見せています。
撰者の藤原為家はどんな人物?
1198年生・1275年没とされる歌人で、藤原定家の子です。父定家のあとを受けて歌壇の中心に立ち、『続後撰和歌集』の撰者としても知られます。歌風は温雅平明と評され、家集『為家集』も残しています。
新勅撰和歌集との違いは?
新勅撰和歌集は定家撰で引き締まった緊張感が強く、続後撰和歌集は為家撰でより平明で明るい調子があります。続後撰和歌集の方がやや読みやすい歌風です。
何巻でどれくらいの歌が入っている?
全20巻で、約1370首を収めるとされます。四季歌、神祇歌、釈教歌、恋歌、雑歌、羈旅歌、賀歌など勅撰集らしい構成を備えています。
初心者はどこを見るとよい?
まずは春歌と恋歌を見ると特徴がつかみやすいです。景色が素直に立ち上がる歌と、感情が無理なく伝わる歌を比べると、この歌集の安定感がよくわかります。
十三代集の中でどんな位置にある?
新古今和歌集のあと、続古今和歌集や続拾遺和歌集へ向かう途中に位置する勅撰集です。新古今の余韻を抱えながら、歌壇を安定した方向へ整える役割を持っています。
【まとめ】新古今のあとを平明で温雅な歌へ整えた勅撰集
続後撰和歌集は、後撰和歌集の名を継ぐ勅撰集というだけでなく、新古今以後の歌壇をどう落ち着かせるかに答えた歌集です。そこでは、技巧を競いすぎないこと、歌姿を自然に保つこと、心のうるわしさを整えて見せることが重んじられています。
だからこの歌集の核心は、革新よりも後を整える力にあります。新古今の高い美を崩さず、それを少し明るく、少し素直に見せる。そこが続後撰和歌集の魅力です。
勅撰集を順番だけで覚えるのではなく、歌風の変化で読むなら、続後撰和歌集はとても大事な歌集です。新古今の余韻が、安定した中世和歌の調子へ変わっていく場所として覚えると、この作品の価値がつかみやすくなります。
参考文献
- 『新編国歌大観 第1巻 勅撰集編』角川書店
- 久保田淳 編『中世和歌史の研究』明治書院
- 『和歌文学大系 続後撰和歌集・続古今和歌集』明治書院
- 『新日本古典文学大系 鎌倉時代和歌集』岩波書店
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